子宮内膜症

当院では子宮内膜症に対する薬物治療・手術療法を専門とする医師が診療にあたる子宮内膜症外来を開設しています。他院で子宮内膜症と診断され、治療方針に迷われている患者さん、手術を希望される患者さん、月経痛がひどくて、何か疾患が隠れていないか、心配な患者さんも受診いただけます。他院で実施された画像検査や紹介状があれば持参ください。

子宮内膜症とは?

子宮内膜症は子宮内膜に似た組織が子宮の内側以外の場所にできる疾患です。卵巣にできるとチョコレート囊胞を生じますが、それ以外にも異所性の子宮内膜が炎症を起こすことにより、腹腔内癒着を生じたり、深部子宮内膜症と呼ばれる硬い組織が直腸と腟の間に生じたりして、疼痛(月経痛・慢性骨盤痛・性交痛)・不妊の原因となる疾患です。
図. 腹腔鏡で見た子宮内膜症 図. 腹腔鏡で見た子宮内膜症

子宮内膜症の治療について

子宮内膜症の治療には手術の療法の他に対症療法と内分泌(薬物)療法の3種類があります。

手術療法

子宮内膜症の病巣を手術により取り去る方法です。手術で腹腔内環境を整えることにより、子宮内膜症による不妊症の患者さんでは術後1年間程度は自然妊娠の確率が上昇します。当院での手術療法の特色についてはこちらで詳しく説明しています。

対症療法

鎮痛剤や漢方薬の内服により月経時の症状を緩和する方法です。

内分泌(薬物)療法

ホルモン治療により子宮内膜症による症状を緩和する方法です。
I.ルナベル、ヤーズ、ジェミーナ、フリウェル(LEP製剤)
低用量のエストロゲンとプロゲスチンを含む製剤です。お薬で女性ホルモンを補充することにより排卵を停止させ、子宮内膜が薄くなることから、毎月の月経量の減少、月経痛を改善します。連続で使用することにより月経回数を減らすことや、月経の来る時期をコントロールすることができます。
II.ディナゲスト(ジエノゲスト)
黄体ホルモン製剤です。黄体ホルモンを外部から補充することにより、月経を停止させます。血中の女性ホルモンの濃度を比較的低値に保つ事により、子宮内膜症の病巣の進展を防ぎます。また、薬剤の作用により直接子宮内膜症細胞の増殖を抑制する効果がある事も知られています。
III.リュープロレリン・レルゴリクス(GnRHアナログ)
脳に働いて、エストロゲンの分泌を一時的に押さえる事によって、月経を停止し、子宮内膜症の症状をおさえます。筋腫等を合併する場合は子宮筋腫の縮小が見られます。副作用として、のぼせなどの更年期症状が見られます。長い間月経を停止していると骨密度が減少することが知られており、使用が半年間に制限されますので、他の薬で効果が不良であった患者さんや、子宮筋腫や子宮腺筋症を合併している患者さんに用います。

治療法の選択について

子宮内膜症の治療について、手術療法を選択するか薬物療法を選択するかについては、患者さんの現在の子宮内膜症の状態をふまえ、症状や生活のパターン、妊娠希望の有無によって、主治医と相談の上決定します。子宮内膜症治療の目的と方法は患者さんによって異なります。例えば不妊症の患者さんは妊娠することが目標となりますので、自然妊娠を目指す場合は手術を行います。年齢や卵巣機能の状態によっては先に体外受精等の高度生殖薬物療法を実施した方が良いかもしれません。また、すぐに妊娠を希望しない患者さんで月経痛に悩まれている患者さんでは薬物療法で月経痛を改善する治療を選択します。ホルモン製剤の選択肢も増加してきており、その治療は長期間に及ぶことが予想されますので、漫然と続けるのではなくライフスタイルや病気の状態によってはお薬を変更したり、手術療法での介入が望ましい場合もあります。また、今後の妊娠を希望しない患者さんでは、根治療法として卵巣を摘出することで約1%のチョコレート囊胞に生じるとされる、悪性転化の心配を減らすことができます。

当院の子宮内膜症手術について

子宮内膜症の手術は腹腔鏡下に行います。子宮内膜症で生じる癒着は線維化によりとても硬くなっています。当院で採用している4Kシステムの腹腔鏡を用いることにより、人間の肉眼よりもより細かな構造を拡大して確認しながら手術を実施します。当院では、卵巣チョコレート囊胞に対する手術のみでなく、深部子宮内膜症の切除も同時に行います。深部子宮内膜症は疼痛の原因となっていることが多いのですが、腸や尿管といった重要な臓器の周辺に生じることが多いため、その切除でそれらの臓器を傷つける可能性から実施している施設は限られています。しかしながら、我々は深部子宮内膜症を切除しないと、いくらチョコレート囊胞のみ手術をしても疼痛が残存すると考えております。当院では日本産科婦人科内視鏡学会の腹腔鏡技術認定医の中でも子宮内膜症に特化した医師が子宮内膜症の手術を実施することにより、深部子宮内膜症を切除する術式を標準化して行っております。また、手術後には子宮内膜症は5年で50%程度の患者さんに何らかの再発(月経痛等の症状、癒着やチョコレート囊胞の病巣)が見られると言われており、再発兆候が見られた場合には早期に薬物治療を開始する必要があります。そのため、当院で手術を行った患者さんは当院の子宮内膜症外来で継続的に診療を行いますし、通院が難しくなった場合には当院の関連施設で引き続き適切な経過観察が受けられるようにしています。

子宮内膜症手術と妊娠について

当院の過去10年間の手術症例の検討では、不妊を主訴として受診され手術を実施された患者さんの約半数が術後1年以内に体外受精によらない方法で妊娠されました。術後妊娠された患者さんの手術時の平均年齢は32.1歳でした。子宮内膜症に対する手術では正常の卵巣組織も摘出してしまう可能性があります。そのため、術後に体外受精を実施する場合には手術により卵巣刺激により発育する卵胞は減少します。当院の手術では卵巣に対しては正常組織の摘出を極力減らすような術式を用いていますが、年齢や卵巣機能を考慮し、手術ではなく、体外受精をおすすめすることもあります。一方で、不妊の患者さんに対する手術のメリットとしては、手術時に腹腔内を洗浄することにより炎症性物質を減らせること、癒着剥離を適切に行うことにより、卵巣、卵管、子宮の位置関係が正常化すること、深部病変を切除することにより、性交痛等の疼痛の改善が得られることでこれらの結果として体外受精によらない妊孕性を改善することにあります。妊娠を希望されるご夫婦と相談しながら治療方針を決定します。
図. 不妊を主訴とした患者さんの術後妊娠率(自然妊娠または一般不妊治療による妊娠) 図. 不妊を主訴とした患者さんの術後妊娠率(自然妊娠または一般不妊治療による妊娠)