腹腔鏡手術

当科では、婦人科良性疾患に対して腹腔鏡下手術を積極的に施行しています。特に不妊症の原因となる子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫に対する不妊症治療としての内視鏡手術に力を入れており、腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術を積極的に行っています。また、婦人科悪性腫瘍に関しても、早期子宮体癌に対して保険適応が認められる以前より先進医療として取り組み、実績を重ねています。
当科では腹腔鏡下手術に対して十分な経験を持ったスタッフが必ず手術に対応するシステムをとり、高度かつ安全性を重視した手術を心がけています。当科の腹腔鏡下手術スタッフは、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定(腹腔鏡・子宮鏡)、日本内視鏡外科学会技術認定を有しています。また、日本産科婦人科内視鏡学会、日本エンドメトリオーシス学会、日本生殖医学会など関連学会の常任理事および評議員として、また、近畿婦人科内視鏡研究会、京都婦人科鏡視下手術研究会の理事、評議員、世話人として高度かつより安全で有効な腹腔鏡下手術の普及に対する責務の一翼を担っています。
婦人科と同じく骨盤内臓器をあつかう消化器外科および泌尿器科腹腔鏡下手術専門医と強く連携していることも当科の特徴で、特に子宮内膜症において子宮や卵巣の周辺にある膀胱、尿管、直腸などの重要な骨盤内臓器を浸潤することがありますが、このような重症症例において合同で手術を多く行っています。

内視鏡にCCDカメラを装着して腹腔内(おなかの中)などに挿入し、モニターに術野を映しながら、鉗子やハサミ、糸針、種々の電気デバイスなどの様々な手術器具を用いて行う手術です。婦人科領域では、内視鏡手術として腹腔鏡、子宮鏡、卵管鏡下手術が行われています。

(1)腹腔鏡下手術 Laparoscopic Surgery

臍の中に約5~12mmの創をあけてトロッカーポートと呼ばれるアタッチメントを装着し、これより5~10mmの細いカメラ(腹腔鏡)を挿入し、腹腔内に炭酸ガスを充満することによりスペースを作り、腹腔内を観察しながら様々な手術を行ういわゆる「きずの小さな手術」です。単に創が小さいだけでなく、あたかも術者がおなかの中に入っているかのごとく十分な拡大視野での繊細な手術手技を行うことができることが大きな特徴です。

通常、臍のカメラポート以外に約5~12mmの創を2~3カ所あけてトロッカーポートを装着し、手術を行ないます(図2、3)。巨大子宮筋腫核出術では、開腹回避のための小切開を用いた「腹腔鏡補助下手術」を行います(図4)。さらに、臍を用いた1カ所の創だけで手術を行う「単孔式腹腔鏡下手術single-incision laparoscopic surgery (SILS)」も行っています(図5)。また、3mmの細径ポートを用いることもあります。腹腔鏡下手術は小さな創で行いますので、通常の開腹手術に比べて美容面で有効で、術後の回復が早く、社会復帰が早い、腹腔内の癒着が起こりにくいので妊娠に有利といったメリットがあります。また、カメラを対象の近距離に設置することにより拡大視野で手術を行えるため、繊細な手術操作が可能で、出血が少ないといった技術的なメリットも大きいです。しかし、腹腔鏡下手術には高度な技術を要し、また、腹腔鏡下手術特有の合併症も一定の確率で起こるとされています。われわれは、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医が必ず腹腔鏡下手術に携わる医療システムをとっています。

(2)子宮鏡下手術 Trans Cervical Resection (TCR)

主に子宮粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープに対して行う手術で、子宮鏡を腟から子宮腔内に挿入し、切除を行います。手術適応は限られますが、腹腔内操作を行わないのでおなかに創がつかず腹腔鏡下手術に比べてさらに低侵襲であるため、より早期に退院、社会復帰が可能です。

(3)卵管鏡下手術 Falloposcopic Tuboplasty (FT)

卵管閉塞症にともなう不妊症に対し、卵管鏡を用いた卵管形成術を行っています。特殊な機器と技術を要する手術ですが、当科では長年の実績を持っています。

手術件数

近年の当科の内視鏡手術件数とその内訳は、以下の通りです。


1.子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮腔内にある子宮内膜に類似した組織が子宮外に存在し、増殖する病気で、月経困難と不妊が主な症状です。卵巣に子宮内膜症が生じると、卵巣内に血液が貯留して腫れてきます(卵巣チョコレート嚢胞)。また、周辺の組織に入り込んで強い疼痛を起こしたり(深部子宮内膜症)、骨盤内に強い癒着を引き起こして不妊症の原因になったり(凍結骨盤)、腸管や膀胱、尿管などの他臓器に浸潤して(腸管子宮内膜症・膀胱子宮内膜症・尿管子宮内膜症)様々な症状を起こします。

  • (1) 子宮内膜症合併不妊症

    子宮内膜症で不妊症を伴う場合、積極的な腹腔鏡下手術が推奨されています。卵巣の腫れだけでなく、高度な癒着や卵管の閉塞を伴う場合が多いからです。また、子宮内膜症病変自体が妊娠を妨害する化学物質を放出しますので、卵管が閉塞していなくても、また、体外受精を試みる場合でも、子宮内膜症組織を出来るだけ取り除くことによって妊娠率の向上が期待できます。

  • (2) 卵巣チョコレート嚢胞

    不妊症を伴わなくても、卵巣チョコレート嚢胞が大きい場合(目安として6cm以上、40歳代以上では4cm以上)、放置すると破裂や感染を起こす危険性があること、癌化する危険性が少なからずあることより、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会による産婦人科診療ガイドラインガイドラインでも手術が推奨されています。手術により、生理痛や生理時以外の骨盤痛の改善が期待できます。術前に明らかに卵巣癌が疑われる場合を除き、腹腔鏡下手術を行います。嚢胞のみを摘出しますので、健側のみならず患側の卵巣も温存できます。嚢胞摘出にあたっては、粗暴な手術による卵巣正常部分の損傷や病変の残存を避けるため、腹腔鏡下に十分な観察を行いながら丁寧に剥離をしていくことが重要とされています。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2)。

  • (3) 深部子宮内膜症・腸管子宮内膜症・膀胱子宮内膜症

    月経痛、性交痛等の疼痛が強く、日常生活に支障をきたし、薬物療法でのコントロールが困難な場合も腹腔鏡下手術の適応となります。特に、骨盤深部や腹膜下に存在する深部病変や腸管、膀胱、尿管など他臓器に浸潤した深部子宮内膜症はdeep infiltrating endometriosis (DIE)と呼ばれて注目されていますが、薬物療法が著効することが少ないため多くの場合手術療法が必要となります。このような重症子宮内膜症に対しては卵巣チョコレート?胞手術のみでは病変が残存してしまうため、十分な痛み症状の抑制効果が得られないだけなく、病勢はさらに進行していきますので、深部病変も含めた十分な病変切除を行う必要があり、高度な技術が必要です。当科では、消化器外科、泌尿器科とも連携してこのような重症子宮内膜症に対して積極的に腹腔鏡下手術を行っています。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2)。

2.子宮筋腫、子宮腺筋症

未婚、あるいは妊娠希望の方には、機能温存手術として子宮筋腫のみを摘出し、子宮を温存する子宮筋腫核出術を施行します。一般的に、子宮筋腫核が6cm以上の大きさである場合、子宮筋腫による過多月経、貧血、不妊症の症状が生じている場合が手術適応となります。子宮筋腫核出術は、あくまでも術後、あるいは将来安全に妊娠できることを目的とする手術であるため、安全かつ正確で確実な子宮形成の技術が必要です。当科では、妊娠希望があり、手術が必要な子宮筋腫患者さんのほとんどの方に対して腹腔鏡下、あるいは腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術を行っています。妊娠希望のない方や生殖的高年齢(概ね45歳以上)の方には、子宮のみを摘出して卵巣を温存する子宮全摘術を行います。

  • (1) 腹腔鏡下子宮筋腫核出術 laparoscopic myomectomy (LM)

    子宮筋腫の切除、子宮の縫合、切除した子宮筋腫の体外への回収といった一連の手術操作をすべて腹腔鏡下の操作のみで行う手術です。開腹手術と比べ術後の回復が早く、創も小さい手術です。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2、3)。美容上のみでなく、術後の腹腔内癒着が少ないので、開腹手術に比べて妊娠に有利であると考えられ、当科で術後妊娠・出産された方がたくさんおられます。LMは高度な技術を要しますし、子宮筋腫が大きくなるほど、筋腫の数が増えるほど難易度が増しますので、医療施設ごとにLMの手術適応が異なります。また、従来、この手術法では電動式組織細切除去装置(モルセレーター)を用いて摘出した筋腫を体外に細断しながら回収していましたが、近年、モルセレーター使用のトラブルが問題になり、1社がその製造販売を中止したあおりを受けて、LMを取りやめた施設が増えています。現在当科では、直径5cm以上の子宮筋腫が3個まで、子宮筋腫の最大径が約7cmまでをLMのおおよその適応の目安とし、臍に臍輪を超えない小切開を加えて摘出した筋腫を直視下に細断しながら回収しています。

  • (2)腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術手術 laparoscopically assisted myomectomy (LAM)

    巨大子宮筋腫や多発子宮筋腫は手術難易度が高くリスクが高まるため、通常は腹腔鏡下子宮筋腫核出術が適応外とされ、開腹手術が選択されることが多いですが、当科ではこのような症例に対して腹腔鏡を用いた小切開手術による「きずの小さな手術」を積極的に行っています。標準的な創は臍部以外に5mmを下腹部に1カ所と恥骨上に約4cmの横切開を加えます(図4)。この小切開と腹腔鏡のコラボレーションにより、開腹手術による大きな切開創を回避することができます。LAMは、開腹手術に比べると創が小さいだけではなく、腹腔内の癒着が少ないため妊娠に有利とも考えられ、LM同様に当科で術後妊娠・出産された方がたくさんおられます。当科でのLAMの適応は、子宮底(子宮の上縁)が概ね臍の高さまでですが、上腹部に達する超巨大子宮筋腫でも条件が整えば、LAMを施行しています。なお、筋腫個数には制限がなく、100個以上の症例にも手がけています。巨大筋腫と多発筋腫に対する子宮を温存する手術は開腹手術でもリスクが高く敬遠されがちですが、当科では独自の工夫と経験により安全で確実なLAMの適応拡大を行っています。
    子宮腺筋症に対しても、同様に腹腔鏡補助下子宮腺筋症核出術laparoscopically assisted adenomyomectomy (LAA)を行います。子宮腺筋症は、過多月経や月経困難の症状が強いことが多く、不妊を伴うことも多いために治療を希望される方が多いですが、一般に子宮を温存する子宮腺筋症核出術は子宮筋腫核出術に比べて子宮筋層への侵襲が大きいために術後妊娠時に子宮破裂などの産科的リスクが高くなること、高頻度に術後再発が起こることより、敬遠されがちです。当科では、妊娠時のリスクを考え、全周性(びまん性)子宮腺筋症についてはLAAの適応外としています。 子宮筋腫、子宮腺筋症に対する子宮を温存する手術は、出血量が多くなるリスクがありますので、自己血として手術用に自身の血液をあらかじめ採血して蓄えていただいています。

  • (3) 全腹腔鏡下子宮全摘術 total laparoscopic hysterectomy (TLH)

    すでにお子さんがおられ、妊娠予定のない方には、子宮のみを摘出する単純子宮全摘術を施行します。子宮筋腫の大きさなどの手術条件が整えば、全腹腔鏡下子宮全摘術total laparoscopic hysterectomy(TLH)を行います。TLHは、子宮がおおよそ臍の高さまでの大きさ(子宮重量約1kg)に可能で、これまで開腹術でしか行えなかった経腟分娩経験のない方や帝王切開術術後の方、重症子宮内膜症で骨盤が強く癒着した凍結骨盤の方にも開腹術を回避した子宮全摘術を行うことができます。開腹による腹式子宮全摘術に比べると、術中出血量が少ないというメリットがあります。美容上、術後の痛みの軽減、早期社会復帰に貢献します。手術後に月経は止まりますが、卵巣は温存されますので、卵巣ホルモン分泌は維持され、手術を契機に更年期障害になることはありません。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2)。

  • (4) 子宮鏡下子宮筋腫摘出術(TCR)

    子宮の内腔に子宮筋腫ができることがあり、子宮粘膜下筋腫と呼ばれます。これは、わずか1~2cmの小さなものでも、過多月経を起こして大量出血、高度貧血をきたすことがあります。また、粘膜下筋腫がちょうど避妊リングのような役割をして着床障害をもたらし、不妊症の原因となることがあります。このような場合、子宮鏡下子宮筋腫摘出術(TCR)を行います。体を傷つけることなく腟から子宮鏡を挿入しますので、術後が非常に楽です。TCRには子宮穿孔、水中毒などの合併症が報告されていますので、超音波を併用し、安全性に十分注意して行っています。

3.卵巣腫瘍

卵巣腫瘍のうち、良性の卵巣嚢腫は腹腔鏡下手術のいい適応です。5、6cm以上の嚢腫は卵巣の靱帯が血管を巻き込んでねじれてしまう状態(茎捻転)がおこることがあります。この場合、強い下腹部痛が生じるだけでなく、卵巣が壊死してしまうこともあり、緊急手術が必要となります。未婚や妊娠希望の方は、患側卵巣も正常部分を温存します。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所、もしくは2cmの小切開のみで行います(図2、5)。

4.異所性妊娠

異所性妊娠(子宮外妊娠)の中で最も多い卵管妊娠に対して、全身状態が良い場合は腹腔鏡下卵管切開術(卵管温存術)を行い、患側の卵管も温存します。しかし、全身状態が悪い場合や、出血量が多い場合、卵管すでに破裂している場合などは、患側の卵管を温存することは困難で、腹腔鏡下卵管切除術を行います。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2)。

5.卵管閉塞症、卵管狭窄症

不妊症の原因として卵管因子が多くを占めます。一般に体外受精が選択されることが多いですが、卵管鏡下卵管形成術(FT)により自然妊娠が可能となるケースがあります。

6.子宮体癌

早期子宮体癌も腹腔鏡下手術の良い適応とされています。推定進行期1b期まで(子宮の筋層2分の1以下にがんがとどまる)で組織診断がG1またはG2の方が手術適応となります。当科では保険適応になる以前より先進医療認可施設として子宮体癌初期例に対して腹腔鏡下子宮全摘術および骨盤リンパ節郭清術を行ってきました。近年、保険適応が認められるようになったため、今後は全国でも手術件数が増加すると思われます。標準的な創は臍部以外に12mmを1カ所と5mmを2カ所です(図2)。

周辺臓器の損傷、大量出血、高度癒着による視野確保が困難の場合、腹腔鏡下手術から開腹手術に切り替えなければならないことがあります。当科での過去6年間の腹腔鏡下手術からの開腹移行例は5例(0.50%)です。

当科では、大学という教育機関である特性上、臨床と同様に教育と研究の重要な責務も担っています。医学生、研修医、大学院生はもちろん、専攻医以上の教室員に対してもさまざまな医学教育の場を提供しています。医学生、研修医、専攻医に対しては、ドライボックスを用いて鉗子操作、腔内縫合についてレクチャーを行い、腹腔鏡下手術に対する技術指導を行っています。さらに実践的なトレーニングとして、動物を使った手術トレーニングなどさまざまな研修に参加し、技術を磨いています。また、内視鏡学会技術認定医の執刀で行う腹腔鏡下手術に参加することによりカメラワークや鉗子操作、術野の展開など正しい手術操作の習得ができます。なお、当院は日本産科婦人科内視鏡学会認定研修施設の指定を受けていますので、腹腔鏡下手術の技術取得を目標とする学内と他施設の医師に対しての研修システムを持ち、他施設からの研修医師の受け入れも積極的に行っています。

研究面では、当教室での腹腔鏡下手術に対する研究内容について関連学会や研究会への発表、講演、論文執筆を行っております。なかでも、子宮内膜症、特に手術治療が困難とされる深部子宮内膜症(deep infiltrating endometriosis; DIE)に対する腹腔鏡下手術に対して当教室では豊富な経験と実績があり、わが国のオピニオンリーダーの一員として参画して多くの著作や講演を行っています。また、新しい機器や手技の開発にも貢献しています。さらに、「京都婦人科鏡視下手術研究会」を立ち上げて演題発表と教育講演を行い、京都全体における婦人科腹腔鏡下手術の技術向上と安全性のブラッシュアップを目的とした研修を行っています。



当科では、女性良性疾患のほぼ全領域と初期悪性疾患に対して積極的に腹腔鏡下手術を行っています。手術日程は、現在のところ手術申込みから約2ヶ月前後には予約可能の状況となっています。診察の結果により腹腔鏡下手術による完遂は困難と判断しなければならない場合もあります。また、腹腔鏡下手術を予定していても、癒着等により、開腹手術に切り替える必要がある場合もあります。手術前に貧血治療のために2~3ヶ月程度の術前薬物療法が必要となる場合があります。あらかじめ、自分の血液を蓄え、手術時の出血に備える自己血貯血を導入しています。当科で腹腔鏡下手術を希望される方は、上記のような術前処置や準備が必要となることがありますので、早めに来院していただければ幸いです。また、腹腔鏡下手術が可能かどうかについてのセカンドオピニオンの御希望にも応じています。